生産活動を原価という視点から管理していくのが原価管理。
企業会計審議会の「原価計算基準」によれば、
原価計算の目的は以下の5つ。
1)財務諸表に表示するために原価集計
2)価格計算への資料提供
3)原価管理※への資料提供
4)予算管理への資料提供
5)経営の基本計画への資料提供
---
※ここに原価管理とは,
原価の標準を設定してこれを指示し,
原価の実際の発生額を計算記録し,
これを標準と比較して,その差異の原因を分析し,
これに関する資料を経営管理者に報告し,
原価能率を増進する措置を講ずることをいう。
(「原価計算基準」より)
---
ここではその原価管理を次の3つに分けて考えます。
1) 原価計算制度
2) 原価の収集
3) 原価の計算
では、この順で次回から説明していきます。
原価計算制度
原価計算制度とは、
--
財務会計機構と有機的に結びつき常時継続的に行なわれる計算体系である。
(「原価計算基準」より)
---
と定義されます。
何のこっちゃ、という感じですね。
財務会計という言葉は使う場面で意味する範囲が異なりますが、
ここでは財務会計を簿記会計の意味合いでとらえ、
簿記検定試験の対策テキスト(サンプル)から下記文章を引用しました。
---
原価計算は,種々の目的を達成するために製品の原価を計算し,工業簿記は,その計算さ れた結果を複式簿記の原理に基づいて帳簿に記入する。つまり工業簿記は,原価計算の手続 なしで記録に必要な資料を得ることはできない。また原価計算は,その基礎資料を工業簿記 の記録から得ることにより,その目的を達成することができるのである。
---
http://www.o-hara.ac.jp/best/boki/sample/2k_txt.pdf
ということで、
原価計算のしくみは財務会計のしくみ(簿記会計)と結びついているのです。
標準原価
原価計算制度は大別して実際原価計算制度と標準原価計算制度とに分類することができます。
ここでは後者の標準原価計算制度についてお話いたします。
原価管理においては、「原価の標準(標準原価)」を設定し、収集した「原価の実際の発生額(実際原価)」と比較して差異分析をし、対策を打ちます。
それでは標準原価はどのように設定するのでしょうか。
---
財貨の消費量を科学的,統計的調査に基づいて能率の尺度となるように予定し,
かつ,予定価格又は正常価格をもって計算した原価
---
(「原価計算基準」より)
現実問題、理想的な標準原価を設定することはなかなか難しいため、
原価計算基準においては、現実的な標準原価が採用されます。
---
現実的標準原価とは,良好な能率のもとにおいて,
その達成が期待されうる標準原価をいい,
通常生ずると認められる程度の減損,
仕損,遊休時間等の余裕率を含む原価であり,
かつ,比較的短期における予定操業度および予定価格を前提として決定され,
これら諸条件の変化に伴い,しばしば改訂される標準原価である。
---
(「原価計算基準」より)
ということで、標準原価はある程度柔軟性を持っています。
逆にいえば、その時々で恣意性が入る余地がありますので、注意が必要です。
原価要素
一口に原価といっても、いくつかの要素に分類できます。
これを原価要素といいます。
---
原価要素は,製造原価要素と販売費および一般管理費の要素に分類する。
---
(「原価計算基準」より)
ここでは製造原価 に着目します。
原価発生の形態面から、大きく分けて下記3つに分類できます。
1) 材料費 (物品の消費によって生ずる原価)
2) 労務費 (労務用役の消費によって生ずる原価)
3) 経費 (材料費,労務費以外の原価要素)
さらに製品に対して直接認識するかしないかで、
上記原価要素を下記の様に直接費と間接費に分けることができます。
1) 材料費
1-1) 直接材料費
1-2) 間接材料費
2) 労務費
2-1) 直接労務費
2-2) 間接労務費
3) 経費
3-1) 直接経費
3-2) 間接経費
製造直接費と製造間接費
前回の原価要素のうち、
1-1)直接材料費
2-1)直接労務費
3-1)直接経費
を製造直接費と呼び、
1-2)間接材料費
2-2)間接労務費
3-2)間接経費
を製造間接費と呼びます。
製造直接費は、製品ごとの消費額が判明するため、
製品ごとに個別に原価を集計していきます。
製造間接費は、製品ごとの消費額が判明しないため、
一定の基準で製品ごとに原価を割り振っていきます。
(製造間接費の配賦)
参考文献:
「01 工業簿記の基礎」P9
http://web.tac-school.co.jp/tacchannel/pdf/3678b.pdf
勘定連絡図
原価の収集や計算は製品の製造活動の進行にともなって段階的に行われます。
原価の収集結果や計算結果は工業簿記のルールで帳簿に記録していきます。
この一定のルールで帳簿に記録していくこと、これが簿記という意味です。
その製造活動の進行と簿記の勘定※記入を一覧にしたものが勘定連絡図です。
※勘定というと、飲食や買い物の精算での「お勘定」を思い起こしますね。
「飲食代 ○○円」のように科目別に数量や金額を記録していきます。
製造品は、例えば、材料、仕掛品、完成品(製品)と形を変えていきます。
仕掛品には材料費のみならず、労務費や経費が含まれていきます。
完成品(製品)も同様です。
製造直接費、製造間接費⇒仕掛品⇒完成品の流れをまずはざっくりつかみます。
教科書的な勘定連絡図の例は下記の12ページを参照してください。
http://web.tac-school.co.jp/tacchannel/pdf/3678b.pdf
個別原価計算と総合原価計算
原価計算は生産形態により下記2つの生産方法に分類することができます。
①個別原価計算
顧客からの注文に応じて生産する品目(注文品)について原価を把握するために、
個別製品ごとに原価を計算をします。
②総合原価計算
同じ規格の製品を大量生産する場合など、工程全体として総合的に原価を計算します。
---
総合原価計算では,1カ月間に製品を生産するのに要した製造原価を
まとめて集計し,1カ月間の製品の生産量で割ることによって
製品1個あたりの原価(製造原価)を計算する。
---
http://web.tac-school.co.jp/tacchannel/pdf/3678b.pdf
外注加工費
外注とは自社ではなく外の会社に仕事の注文を出すことです。
外注加工という場合、外に出す仕事の内容は加工作業です。
その際に加工作業に使用する原材料を外注業者に支給する場合があります。
有償で原材料を支給することを有償支給、
無料で原材料を支給することを無償支給といいます。
外注業者に支払う加工費が外注加工費です。
外注加工費は直接経費の代表例です。
製造原価における変動費と固定費
製造原価は、操業度によって変動する変動費部分と、
操業度によって変動しない固定費部分とに分かれます。
例えば、直接材料費は変動費、火災保険料は固定費、という具合に。
変動費の中でも操業度0でも一定の費用がかかる準変動費と、
操業度に応じて段階的に固定費が変わる準固定費とがあります。
例えば、電力料は準変動費、監督者給料は準固定費という具合に。
これらは主として操業度に応じた原価分析をする際に用いられます。
http://www.mogijuku.jp/hokou-1.pdf
棚卸資産価額の算定
製品や半製品、仕掛品、原材料など販売目的の資産を棚卸資産といいます。
売上原価の算定や期末時点の棚卸資産価額の算定をするために、
棚卸資産会計基準においては、下記の4つの算定方法が認められいます。
①個別法
②先入先出法
③平均法
④売価還元法
ここでは①と③を取り上げます。
(経験したプロジェクトでは両者が多かった関係で)
①個別法
取得原価の異なる棚卸資産を区別して記録し、
その個々の実際原価によって期末棚卸資産の評価額を算定する方法です。
個別性の強い棚卸資産の評価に適しています。
③平均法
取得した棚卸資産の平均原価を計算し、
この平均原価によって期末棚卸資産の評価額を算定する方法です。
なお、平均原価は総平均法、または移動平均法によって算出します。
(計算例は次回に)
参考:棚卸資産会計基準
https://www.asb.or.jp/asb/asb_j/documents/docs/tanaoroshi/tanaoroshi.pdf
>平均原価は総平均法、または移動平均法によって算出します。
総平均法と移動平均法の算出方法の違いにつきましては
下記ブログが参考になります。
http://www.itzeirishi.com/?p=301
なお、移動平均法には都度移動平均法と月別移動平均法があります。
都度移動平均法と月別移動平均法の算出方法の違いにつきましては
下記ブログが参考になります。
http://www.itzeirishi.com/?p=62